弁護士Kubokazの法律雑感

都内で活動する弁護士が、日々思った法律問題について書いています。思ったままに、筆の進むままに書いてますので、「へぇー」という程度にご覧ください。

合意管轄

契約書の最後の方を見ると、たいてい「管轄裁判所」とか「合意管轄」といった題名の条文が置かれています。

これは、契約の内容をめぐって訴訟が起こされたときに、訴訟を起こせる裁判所を当事者間で合意するものです。民事訴訟法には、こうこうこういった事件については、どこどこの裁判所に訴訟を提起することができる、という細かいルールが定められているのですが、それと同時に、当事者間で裁判所を合意することもできるとされています。

 

通常は東京とか大阪などの大都市に所在する裁判所か、あるいは契約当事者のどちらか一方が所在する地域の裁判所が指定されていると思います。訴訟になった場合、期日のたびに裁判所まで行かなければなりませんので、自分の所在地に近い裁判所の方が移動時間や交通費の面で便利ですよね。

東京や大阪は、いわゆる大規模庁であり、事件の種類ごとに専門的に取り扱う裁判官がいることや、弁護士を依頼する場合に東京や大阪であれば選択肢が多いことなどが理由となって選ばれているんだと思います。

 

さて、この合意管轄ですが、以下のような文言で定められることが多いと思います。契約チェックの中でもあまり注目されないところですが、意外と落とし穴があるので注意が必要です!

 

<本契約に関連して生じた紛争については、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする>

 

①まず、合意管轄を決めることができるのは、「第一審」に限られます。訴訟制度上、一審で負けても控訴審高等裁判所)、上告審(最高裁判所)と続けることができますが、控訴審や上告審をどの裁判所で審理するかは、当事者間で決めることはできません。

第一審は基本的に地方裁判所で審理しますので、必然的に、契約で合意できる裁判所も地方裁判所ということになります(例えば、第一審を東京高等裁判所で行うと合意しても無効です)。

 

②次に、「専属的合意管轄」であることを明示しなければなりません。仮に「●●地方裁判所を第一審の合意管轄裁判所とする」と定めたらどうなるでしょうか?

これは、選択的合意管轄裁判所と解される可能性が高いと思います。選択的合意管轄裁判所とは、民事訴訟法で定められる管轄裁判所に「加えて」、当事者間で合意した裁判所でも訴訟を提起することが「できる」という意味です。

例えば、「静岡地方裁判所を第一審の合意管轄裁判所とする」と定めた場合、民事訴訟法上、東京地方裁判所でも訴訟を起こせるならば、当事者は、東京か静岡か好きな方で訴訟を起こせるということになります。

一方、「静岡地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」と定めていれば、東京地方裁判所で訴訟を起こすことはできず、当事者は、必ず静岡で訴訟を起こす必要があります。

 

合意管轄を定めたらからといって安心していても、その文言がしっかりと「専属的」合意管轄を定めるものになっていなければ、予想外の裁判所に訴訟を起こされるリスクがありますので、注意が必要ですね。