弁護士Kubokazの法律雑感

都内で活動する弁護士が、日々思った法律問題について書いています。思ったままに、筆の進むままに書いてますので、「へぇー」という程度にご覧ください。

売買契約における目的物

売買契約は、その名のとおり売主と買主が、何かを売り買いするときに締結するものです。そのため、売買契約書を作成するにあたっては、「何を」売り買いするのか(=目的物)が明確になっていることが重要になります。

「そんなこと当然ではないか!」と思われるかもしれませんが、意外と売り買いする物を文字で明確にするのは難しいものです。後で思ったのと違った物が売主から届いたとしても、契約書の文言と矛盾する物でないならば、契約違反を主張するのは厳しくなってしまうでしょう。

例えば、単純な例ですが、iPadを購入する場合を考えてみましょう。普通は家電量販店などに行って現物を見て買うので、契約書を作ることなんかないと思いますが、ここでは「目的物を特定する」という観点から分析してみます。

まず、「iPad」と書くだけでOKでしょうか? 世の中にiPadを作っている会社がAppleのみとは限りません(Apple以外が作っている場合、色々と法律問題が起こると思いますが、そこは割愛します)。そのため、まずは「Apple社製のiPad」と書く必要があります。

次にApple社製のiPadといっても、初代iPadから最新モデルまで、数々のバージョンが存在します。したがって、これも明記しなければなりません(今更初代iPadなんか売られたら困ってしまうでしょう)。iPad AiriPad miniなどのように、製品名さえ書けば特定できる場合もありますが、同じ製品名で新製品が出されることもあるので、注意が必要です。

他にも、容量、カラー、WiFi/セルラーモデル、画面の大きさなどのバリエーションがありますので、全てを明記しなければ、あなたが希望するiPadが届かない可能性が残ってしまいます。

以上を整理すると、最低限「Apple社製iPad(●●年モデル)、シルバー、WiFiモデル、128GB」くらいは書かないと、売買の目的物が特定できていないおそれがあるということになります。

なお、工業製品の場合、メーカーは製品ごとに型番を付けて管理してますので、型番により特定することも多いかと思います。

ポイントは、契約交渉に参加していない人が、契約書の文言だけをみて、「これを売り買いする契約だな」と明確に理解できるかどうかだと思います。契約交渉に参加している人は、お互いに何を売り買いするのか暗黙の了解ができてしまっているので、多少言葉足らずであっても「分かるからいいよ」ということになるためです。

発注や受け渡しなどもすべてその人たちでやるならいいかもしれませんが、例えば契約交渉は営業部、受発注は購買部、支払は経理部、といった具合に担当が分かれてしまったらどうでしょうか。交渉担当者が当然としていた目的物が、うまく契約書に記載されていなかったため、後の担当者が勘違いして別の物を発送してしまった実例があります。

何を売り買いする契約なのか、今一度落ち着いて、契約書の文言をチェックしてみてください。