弁護士Kubokazの法律雑感

都内で活動する弁護士が、日々思った法律問題について書いています。思ったままに、筆の進むままに書いてますので、「へぇー」という程度にご覧ください。

民法改正でどうなる?-瑕疵担保

今般民法が改正することになり、大きなニュースになっています。

民法明治29年に制定された法律ですが、平成16年に口語化(それまでは昔のカタカナと漢字の表記だったので、めちゃくちゃ読みにくかったです・・・)されたのを除き、ほとんど改正されずにいました。

しかしさすがに明治時代の法律を使い続けるのには無理があるということで、今回の大改正が実現しました。

 

改正の内容は多岐にわたり、全てを解説するには分厚い本が書けてしまいますので、ここではそれはやりませんが、その中の一つのトピックである瑕疵担保について触れてみたいと思います。

 

瑕疵担保とは、ざっくりいうと、物を売った人が、その売った物に「瑕疵」(不具合とか欠陥という意味だと思ってください)があった場合、買った人は、契約解除や不具合あるものを掴まされたことによる損害の賠償を求めることができるという制度です。

しかし、この制度については多くの論点が含まれており、解釈が固まっていませんでした。詳細を述べるとかなり専門的な議論になってしまうため割愛しますが、今回の改正で、そういった解釈が分かれていた点を整理することになりました。

 

改正法の条文は以下のとおりです。

 

562条(買主の追完請求権)

1 引き渡された目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないものであるときは、買主は、売主に対し、目的物の修補、代替物の引き渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる。ただし、売主は、買主に不相当な負担を課するものでないときは、買主が請求した方法と異なる方法による履行の追完をすることができる。

2 前項の不適合が買主の責めに帰すべき事由によるものであるときは、買主は、同項の規定による履行の追完の請求をすることができない。

 

まず注目すべきは、これまでずっと使われてきた「瑕疵」という用語が無くなったことです。ただ、これは「瑕疵」という用語が専門的で分かりにくいことから「契約の内容に適合しないもの」と言い換えただけで、その内容はこれまでとあまり変わらないようです。

 

また、これまでの瑕疵担保では、その瑕疵が「隠れた」ものであることが必要とされ、「隠れた」とは、買主が物を受け取った時に、どんなに頑張っても見つけられないこと(法律用語では「善意無過失」といいます)を意味するとされていました。しかし、改正法では、この「隠れた」という要件が削除され、不具合が見つけにくさは問題にならないことになりました。

 

また、改正前の民法では、瑕疵があった場合に買主がとれる対応として明記されていたのは、契約解除と損害賠償のみであって、追完請求(ちゃんとしたものを代わりによこせとか、不具合を修理せよなど)ができるかは明確でありませんでした。この点について改正法は、買主が①目的物の修補、②代替物の引渡し、③不足分の引渡しの3つの方法を取れることを明記しています。

ただし、第2項で、買主に責任がある場合は追完の請求ができないことも併せて規定されていますので、注意が必要です(買主に責任があるんだから当然といえば当然ですが)。

 

他に、買主に「不相当な負担を課するものでないとき」は、売主は、買主の請求と異なる方法で追完できるとなっています。買主が代替物をよこせと請求したけど、修理するような場合ですね。しかし、「不相当な負担」とは具体的にどういったことを指すのかは、改正法の文言から明らかではありません。今後の実務運用で意味づけが形成されていくものと思われますが、改正法が施行されてしばらくは、「よくわからない」状態が続いてしまうと思われますので、注意しなければなりません。

 

他の改正部分についても、少しづつ触れていければと思いますが、本日はこの辺で。

仲裁合意の留意点

前回、契約書における合意管轄について書いたので、それと関連して、仲裁合意をする場合について触れたいと思います。

 

仲裁とは、当事者が仲裁人となる人を選んで、その人に双方の言い分を聞いてもらって判断を仰ぐというもので、裁判とは異なる紛争解決手段の一つです。特に、海外との契約においては、裁判手続きに対する不信感(相手方の国で裁判が行われた場合、外国民である自分に不利な判断が出されるのではないかというもの)から、紛争解決手段として仲裁が好まれる傾向にあるようです。

 

さて、その仲裁ですが、紛争解決手段とするためには、契約において、「紛争は仲裁によって解決する」ということを明記しておく必要があります。

更にいうと、準拠法の問題も絡むので難しくなりますが(準拠法については改めて書く予定です)、日本法が適用される場合、仲裁法という法律があり、この法律において、仲裁合意は、仲裁を唯一の紛争解決手段と定める必要があるとされています。つまり、契約に、「紛争は仲裁によって『も』解決することができる」などのように、仲裁は紛争解決手段の一つにすぎず、例えばそれ以外に訴訟を提起することも可能と読めるような定め方をしている場合、仲裁合意自体が無効とされるおそれがある、ということになります。

 

紛争解決手段を仲裁としたい場合、紛争は仲裁「のみ」で解決できることを明記する必要があります。さらに念には念をということで、各当事者は、訴訟提起する権利を放棄するということを加えておいてもよいかもしれません。

 

仲裁については、仲裁地をどこにするか、仲裁手続きに適用するルールをどうやって決めるか、仲裁人をどうやって選ぶかなども問題となり、契約交渉のポイントとなりますが、これについてはまた改めて触れようと思います。

合意管轄

契約書の最後の方を見ると、たいてい「管轄裁判所」とか「合意管轄」といった題名の条文が置かれています。

これは、契約の内容をめぐって訴訟が起こされたときに、訴訟を起こせる裁判所を当事者間で合意するものです。民事訴訟法には、こうこうこういった事件については、どこどこの裁判所に訴訟を提起することができる、という細かいルールが定められているのですが、それと同時に、当事者間で裁判所を合意することもできるとされています。

 

通常は東京とか大阪などの大都市に所在する裁判所か、あるいは契約当事者のどちらか一方が所在する地域の裁判所が指定されていると思います。訴訟になった場合、期日のたびに裁判所まで行かなければなりませんので、自分の所在地に近い裁判所の方が移動時間や交通費の面で便利ですよね。

東京や大阪は、いわゆる大規模庁であり、事件の種類ごとに専門的に取り扱う裁判官がいることや、弁護士を依頼する場合に東京や大阪であれば選択肢が多いことなどが理由となって選ばれているんだと思います。

 

さて、この合意管轄ですが、以下のような文言で定められることが多いと思います。契約チェックの中でもあまり注目されないところですが、意外と落とし穴があるので注意が必要です!

 

<本契約に関連して生じた紛争については、●●地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする>

 

①まず、合意管轄を決めることができるのは、「第一審」に限られます。訴訟制度上、一審で負けても控訴審高等裁判所)、上告審(最高裁判所)と続けることができますが、控訴審や上告審をどの裁判所で審理するかは、当事者間で決めることはできません。

第一審は基本的に地方裁判所で審理しますので、必然的に、契約で合意できる裁判所も地方裁判所ということになります(例えば、第一審を東京高等裁判所で行うと合意しても無効です)。

 

②次に、「専属的合意管轄」であることを明示しなければなりません。仮に「●●地方裁判所を第一審の合意管轄裁判所とする」と定めたらどうなるでしょうか?

これは、選択的合意管轄裁判所と解される可能性が高いと思います。選択的合意管轄裁判所とは、民事訴訟法で定められる管轄裁判所に「加えて」、当事者間で合意した裁判所でも訴訟を提起することが「できる」という意味です。

例えば、「静岡地方裁判所を第一審の合意管轄裁判所とする」と定めた場合、民事訴訟法上、東京地方裁判所でも訴訟を起こせるならば、当事者は、東京か静岡か好きな方で訴訟を起こせるということになります。

一方、「静岡地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする」と定めていれば、東京地方裁判所で訴訟を起こすことはできず、当事者は、必ず静岡で訴訟を起こす必要があります。

 

合意管轄を定めたらからといって安心していても、その文言がしっかりと「専属的」合意管轄を定めるものになっていなければ、予想外の裁判所に訴訟を起こされるリスクがありますので、注意が必要ですね。

売買契約における目的物

売買契約は、その名のとおり売主と買主が、何かを売り買いするときに締結するものです。そのため、売買契約書を作成するにあたっては、「何を」売り買いするのか(=目的物)が明確になっていることが重要になります。

「そんなこと当然ではないか!」と思われるかもしれませんが、意外と売り買いする物を文字で明確にするのは難しいものです。後で思ったのと違った物が売主から届いたとしても、契約書の文言と矛盾する物でないならば、契約違反を主張するのは厳しくなってしまうでしょう。

例えば、単純な例ですが、iPadを購入する場合を考えてみましょう。普通は家電量販店などに行って現物を見て買うので、契約書を作ることなんかないと思いますが、ここでは「目的物を特定する」という観点から分析してみます。

まず、「iPad」と書くだけでOKでしょうか? 世の中にiPadを作っている会社がAppleのみとは限りません(Apple以外が作っている場合、色々と法律問題が起こると思いますが、そこは割愛します)。そのため、まずは「Apple社製のiPad」と書く必要があります。

次にApple社製のiPadといっても、初代iPadから最新モデルまで、数々のバージョンが存在します。したがって、これも明記しなければなりません(今更初代iPadなんか売られたら困ってしまうでしょう)。iPad AiriPad miniなどのように、製品名さえ書けば特定できる場合もありますが、同じ製品名で新製品が出されることもあるので、注意が必要です。

他にも、容量、カラー、WiFi/セルラーモデル、画面の大きさなどのバリエーションがありますので、全てを明記しなければ、あなたが希望するiPadが届かない可能性が残ってしまいます。

以上を整理すると、最低限「Apple社製iPad(●●年モデル)、シルバー、WiFiモデル、128GB」くらいは書かないと、売買の目的物が特定できていないおそれがあるということになります。

なお、工業製品の場合、メーカーは製品ごとに型番を付けて管理してますので、型番により特定することも多いかと思います。

ポイントは、契約交渉に参加していない人が、契約書の文言だけをみて、「これを売り買いする契約だな」と明確に理解できるかどうかだと思います。契約交渉に参加している人は、お互いに何を売り買いするのか暗黙の了解ができてしまっているので、多少言葉足らずであっても「分かるからいいよ」ということになるためです。

発注や受け渡しなどもすべてその人たちでやるならいいかもしれませんが、例えば契約交渉は営業部、受発注は購買部、支払は経理部、といった具合に担当が分かれてしまったらどうでしょうか。交渉担当者が当然としていた目的物が、うまく契約書に記載されていなかったため、後の担当者が勘違いして別の物を発送してしまった実例があります。

何を売り買いする契約なのか、今一度落ち着いて、契約書の文言をチェックしてみてください。

秘密保持義務

企業間の取引にあたって、秘密保持契約を締結することはよくあります。

お互いに秘密情報を開示するので、その情報はちゃんと秘密のまま守ってね、というもので、内容もそんなに複雑にならないのが一般的ですが、突き詰めると難しい問題がいっぱいでてきます。

 

典型的なのが

①相手が違反していることをどうやって発見するか

②違反した相手に何を請求できるのか

といったところかと思います。

 

自社の秘密情報を相手方が漏えいしたとしても、その事実を自社が把握するのはとても難しいことです。顧客の個人情報が流出した!といった分かりやすい事例であればいいですが、例えば技術情報が第三者に漏れたとして、その第三者が技術情報を使って新たな発明などをしたとしても、どんな技術情報を使ったのか分かりませんし、仮にわかったとしても、発明には年月がかかりますから、把握した時には既に漏えいから数年が経過していた、、、なんて事態も普通に起こります。

 

また、仮に相手方の違反を知ったとしても、何を請求できるのでしょうか。秘密情報を漏えいするなという差止請求は考えられますが、既に漏えいした情報を回収することは困難です。また、漏えい先の第三者に対して何らかの請求をする場合、秘密情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に当たらないと、法的根拠を見つけるのが難しいです(そもそも営業秘密の要件が厳しいという問題もありますが)。

加えて、理論上は損害賠償請求も可能ですが、損害の立証も困難が伴います情報漏えいによって自らが被った損害が何か、という話になりますが、一般論として「秘密が漏れたら困る」という話はできても、具体的に金銭的な損害が生じたとまでは言えないことが多いのではないでしょうか。

 

ちなみに損害賠償の点は、秘密保持契約において、損害賠償額を予め記載しておくという対応がよく言われますが、これまで多くの秘密保持契約を見てきたところ、損害賠償額まで決めている契約はむしろマレという印象があります。

 

秘密保持契約が重要であることは変わりませんが、締結しているから安心と思って情報開示してしまわないよう、気を付けなければならないということでしょうね。

知的財産権の共有

土地や建物の権利を複数人で共有するということは一般的です。

ふだんあまり法律に触れない方であっても、例えば親からお金を出してもらって家を買った場合に、持ち分を半々にして登記する、なんてことをした経験がある方は多いのではないでしょうか。

これは厳密には、所有権を共有しているということになります。

 

知的財産権も所有権と同じく法律上の「権利」ですので、複数人で共有することが可能です。ただ、共有となった場合の法律上のルールが、知的財産権の内容によって異なりますので注意が必要です。

 

例えば、特許権の場合、共有されていても、特許権の対象になっている発明品を製造販売したりすること(法律用語で「自己実施」などといいます)は、それぞれが自由にできます。

一方で、著作権の場合、共有されている場合、共有者全員の合意がなければ著作物を利用することができません。そうすると、例えばある音楽の著作権を他人と共有している場合、全員の合意がなければ、その音楽をパソコンに取り込んだりポータブルプレーヤーに転送したりということができなくなります。

 

一応、著作権法上、共有者が他の共有者の利用を拒否する場合には「正当な理由」がなければならないことになっているので、自分勝手な共有者がいるから音楽を自由に利用できない、といった事態への手当はされていますが、それでもいちいち合意をとらなきゃいけないのは面倒です。そこで、著作権が共有される場合には、あらかじめ共有者間で、それぞれが自由に利用できることを契約で決めておいたりします。

 

権利ごとの法律上のルールの違いを忘れていると、思わぬ落とし穴にハマることがありますので要注意ですね。契約書の作成を弁護士に依頼するメリットは、契約書の文言を整えてくれることに加えて、こういった法律上の落とし穴をしっかり回避してくれる点にあるのだと思っています(自戒を込めて。。。)。

予防法務

仕事上、契約書のドラフトやチェックをすることが多いのですが、特に契約書のチェックをすると、日本語のレベルからあやしいものが散見されるのに驚かされます。それと同時に、そのような契約書が世の中にあふれかえっている中で、それなりにビジネスが回っているということも痛感します。

 

契約書チェックなどの業務は、よく「予防法務」と呼ばれます。その名の通り、将来の紛争を予防することを目的としています。しかし、「予防法務」という考え方が浸透してきたのはまだまだ最近のことで、つい十数年前まではほとんど知られていない概念だったように思います。

 

予防法務を説明する上でよく引き合いに出されるのが「保険」です。保険は将来病気や事故に遭遇した際に金銭的に困らないよう、現時点で少額の出費をするものであり、「予防法務」も同様に、将来紛争が起こって巨額の支出が発生しないよう、現時点でそれよりも少ないお金をかけて対策しておくのだということです。

 

ある程度的を射ていると思うのですが、同時に、予防法務に必要なお金(弁護士費用)は、保険に比べて高いことが通常なので、そこのギャップをうまく説明しないと、聞く人に響かないんじゃないかとも思っています。特に、上記のように、弁護士の目からすれば全然「イケテない」契約書であっても、それゆえに紛争になっている例が少ないことから、予防法務にお金をかける必要性を感じない方も多いと思います。

 

個人的には、保険に入ったとしても、将来の病気や事故の可能性を減らすことはできないけど、予防法務においては将来の紛争の可能性を減らす効果があることから、将来の支出の可能性を減らすという意味で、保険よりも金銭的価値の高いサービスであるなどと言っています。もちろん、法律業務は個別の案件ごとに異なる(いわばフルオーダーメイド)ので、保険商品のように同じものを多く販売することで一個当たりの単価を下げるという方法が取れないこともあるのですが、法律業務がフルオーダーメイドであることの理解が浸透していないこともあって、残念ながら、払う側にとっては十分な納得が得られる説明ではないようです。

 

日本の弁護士報酬は海外に比べたら(たとえ大手渉外事務所であっても)格段に安いんですけどね。。。