秘密保持義務

企業間の取引にあたって、秘密保持契約を締結することはよくあります。

お互いに秘密情報を開示するので、その情報はちゃんと秘密のまま守ってね、というもので、内容もそんなに複雑にならないのが一般的ですが、突き詰めると難しい問題がいっぱいでてきます。

 

典型的なのが

①相手が違反していることをどうやって発見するか

②違反した相手に何を請求できるのか

といったところかと思います。

 

自社の秘密情報を相手方が漏えいしたとしても、その事実を自社が把握するのはとても難しいことです。顧客の個人情報が流出した!といった分かりやすい事例であればいいですが、例えば技術情報が第三者に漏れたとして、その第三者が技術情報を使って新たな発明などをしたとしても、どんな技術情報を使ったのか分かりませんし、仮にわかったとしても、発明には年月がかかりますから、把握した時には既に漏えいから数年が経過していた、、、なんて事態も普通に起こります。

 

また、仮に相手方の違反を知ったとしても、何を請求できるのでしょうか。秘密情報を漏えいするなという差止請求は考えられますが、既に漏えいした情報を回収することは困難です。また、漏えい先の第三者に対して何らかの請求をする場合、秘密情報が不正競争防止法上の「営業秘密」に当たらないと、法的根拠を見つけるのが難しいです(そもそも営業秘密の要件が厳しいという問題もありますが)。

加えて、理論上は損害賠償請求も可能ですが、損害の立証も困難が伴います情報漏えいによって自らが被った損害が何か、という話になりますが、一般論として「秘密が漏れたら困る」という話はできても、具体的に金銭的な損害が生じたとまでは言えないことが多いのではないでしょうか。

 

ちなみに損害賠償の点は、秘密保持契約において、損害賠償額を予め記載しておくという対応がよく言われますが、これまで多くの秘密保持契約を見てきたところ、損害賠償額まで決めている契約はむしろマレという印象があります。

 

秘密保持契約が重要であることは変わりませんが、締結しているから安心と思って情報開示してしまわないよう、気を付けなければならないということでしょうね。

知的財産権の共有

土地や建物の権利を複数人で共有するということは一般的です。

ふだんあまり法律に触れない方であっても、例えば親からお金を出してもらって家を買った場合に、持ち分を半々にして登記する、なんてことをした経験がある方は多いのではないでしょうか。

これは厳密には、所有権を共有しているということになります。

 

知的財産権も所有権と同じく法律上の「権利」ですので、複数人で共有することが可能です。ただ、共有となった場合の法律上のルールが、知的財産権の内容によって異なりますので注意が必要です。

 

例えば、特許権の場合、共有されていても、特許権の対象になっている発明品を製造販売したりすること(法律用語で「自己実施」などといいます)は、それぞれが自由にできます。

一方で、著作権の場合、共有されている場合、共有者全員の合意がなければ著作物を利用することができません。そうすると、例えばある音楽の著作権を他人と共有している場合、全員の合意がなければ、その音楽をパソコンに取り込んだりポータブルプレーヤーに転送したりということができなくなります。

 

一応、著作権法上、共有者が他の共有者の利用を拒否する場合には「正当な理由」がなければならないことになっているので、自分勝手な共有者がいるから音楽を自由に利用できない、といった事態への手当はされていますが、それでもいちいち合意をとらなきゃいけないのは面倒です。そこで、著作権が共有される場合には、あらかじめ共有者間で、それぞれが自由に利用できることを契約で決めておいたりします。

 

権利ごとの法律上のルールの違いを忘れていると、思わぬ落とし穴にハマることがありますので要注意ですね。契約書の作成を弁護士に依頼するメリットは、契約書の文言を整えてくれることに加えて、こういった法律上の落とし穴をしっかり回避してくれる点にあるのだと思っています(自戒を込めて。。。)。

予防法務

仕事上、契約書のドラフトやチェックをすることが多いのですが、特に契約書のチェックをすると、日本語のレベルからあやしいものが散見されるのに驚かされます。それと同時に、そのような契約書が世の中にあふれかえっている中で、それなりにビジネスが回っているということも痛感します。

 

契約書チェックなどの業務は、よく「予防法務」と呼ばれます。その名の通り、将来の紛争を予防することを目的としています。しかし、「予防法務」という考え方が浸透してきたのはまだまだ最近のことで、つい十数年前まではほとんど知られていない概念だったように思います。

 

予防法務を説明する上でよく引き合いに出されるのが「保険」です。保険は将来病気や事故に遭遇した際に金銭的に困らないよう、現時点で少額の出費をするものであり、「予防法務」も同様に、将来紛争が起こって巨額の支出が発生しないよう、現時点でそれよりも少ないお金をかけて対策しておくのだということです。

 

ある程度的を射ていると思うのですが、同時に、予防法務に必要なお金(弁護士費用)は、保険に比べて高いことが通常なので、そこのギャップをうまく説明しないと、聞く人に響かないんじゃないかとも思っています。特に、上記のように、弁護士の目からすれば全然「イケテない」契約書であっても、それゆえに紛争になっている例が少ないことから、予防法務にお金をかける必要性を感じない方も多いと思います。

 

個人的には、保険に入ったとしても、将来の病気や事故の可能性を減らすことはできないけど、予防法務においては将来の紛争の可能性を減らす効果があることから、将来の支出の可能性を減らすという意味で、保険よりも金銭的価値の高いサービスであるなどと言っています。もちろん、法律業務は個別の案件ごとに異なる(いわばフルオーダーメイド)ので、保険商品のように同じものを多く販売することで一個当たりの単価を下げるという方法が取れないこともあるのですが、法律業務がフルオーダーメイドであることの理解が浸透していないこともあって、残念ながら、払う側にとっては十分な納得が得られる説明ではないようです。

 

日本の弁護士報酬は海外に比べたら(たとえ大手渉外事務所であっても)格段に安いんですけどね。。。

ライセンスと権利不行使

知的財産権を取り扱う業務にかかわる人であれば、一度は「ライセンス契約」を目にしたことがあると思います。

このライセンス契約は、簡単に言えば、知的財産権保有する側が、その権利を利用したい側に対して、「知的財産権の利用を許諾する」という契約です。

これを法律用語を用いて表現すると、特許権の場合は「実施権の許諾」、商標権の場合は「使用権の許諾」となります。

 

このように、ライセンス契約は契約の中で「許諾する」という表現が用いられるため、権利者が何か積極的な行為をするように思われがちです。しかし、その実態は、「契約に定められた内容を守ることを条件として、自身の知的財産権行使しない」という、消極的なものと理解するのが正確でしょう。

つまり、「ライセンス=権利不行使の約束」ということです。

 

しかし、実務上、「ライセンス契約」と「権利不行使の合意」は意識的に区別して用いられていることが多いように思われます。そこで問題になるのが、特許法上の「当然対抗制度」の適用範囲です。

 

特許法第99条>

通常実施権は、その発生後にその特許権若しくは専用実施権又はその特許権についての専用実施権を取得した者に対しても、その効力を有する。

 

特許法第99条が定めているのは、通常実施権の許諾を受けている者(ライセンスを受けている者という意味とご理解ください)は、特許権が譲渡等されたとしても、その譲渡先に対して、「自分はライセンスを受けているから引き続き特許を実施できる」と主張することができる(対抗することができる)というものです。

ここで、権利不行使の合意も第99条により当然に譲渡先に対抗できるのか(つまり、譲渡先に対して、「お前は自分に特許権を行使できない」と主張できるのか)が問題となります。

上記のとおり「ライセンス=権利不行使の約束」という理解を前提とすれば、ライセンスとはすなわち通常実施権の許諾なので、権利不行使の合意も対抗できることになります。

しかし、実務上、「ライセンス契約」と「権利不行使の合意」が使い分けられていることからすると、権利不行使の合意=通常実施権の設定とは直ちに言えないのではないかという疑問がわいてきます。この場合、権利不行使の合意にも当然対抗制度の適用があるとするのは、当事者の意思を超えてしまう可能性が生じます。

 

この点が問題になった裁判例などはまだないようで、特許庁の説明を見ても、ここは明確な答えを出さないまま条文を作成したようです。

 

ということで、「権利不行使の合意に特許法上の当然対抗の適用があるか」、という疑問については、「あるかもしれないけど、ないかもしれないので、確実に適用があるというためには、通常実施権の許諾であることを明記しておくべき」という、なんともハッキリしない回答とならざるを得ないのが現状です。

ブログ開設

弁護士として働きだして8年目に入りました。

 

毎日様々な法律問題に向き合う中で、考えたことや感じたことを整理する場として、本ブログを開設することにしました。法律問題に限らず、日々思ったことを書いていくつもりです。

弁護士ってこんなこと考えているんだなーと、何となくでも伝われば幸いです。

 

当然ながら個別の案件について書くわけにはいきませんので、抽象的な内容が多くなるかと思いますが、まずは3日坊主にならないよう、続けていきたいと思います。